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【日本最小ラガーマンが語る豆の眼力】「スピード」と「キレ」ヤマハ・田中渉太選手の技術

トップリーグ第12節。今回は、小柄な選手が魅せた試合を決める「大きな」技術について紹介する。それがヤマハ発動機ジュビロの田中渉太選手だ。田中選手はスピードとキレがあるステップを武器にする30歳のベテランだ。首藤甲子郎氏が、田中選手のステップの裏にある技術を解説する。

Ellis Web編集部

1.熱気で包まれたトップリーグ第12節

日本列島を寒気で包みこんだ先週末。トップリーグ第12節が各地で行われ、寒さを吹き飛ばすかのような盛り上がりを見せた。今回取り上げるのは、16日に静岡県磐田市ヤマハスタジアムで行われた、ヤマハ発動機ジュビロvs宗像サニックスブルースとの一戦だ。

首藤甲子郎氏

2.ヤマハのWTB田中渉太選手の活躍で決勝T進出

ホワイトカンファレンス2位のヤマハはこの試合で40-5でサニックスを圧倒し、 17日に同3位のリコーが敗れたため、決勝トーナメント進出を果たした。 この試合、MOM(マンオブザマッチ)に選ばれたのはヤマハのWTB田中渉太選手(No.11)。田中選手は持ち前のステップとスピードで相手DFを切り裂き、自身初の公式戦3トライを決めた。 開幕直前に太ももを負傷し、前半戦は思うように活躍できなかった田中選手。 怪我からの完全復活を印象付けた、田中選手のトライに隠された技術について解説していきたい。

3.相手の思考の裏をとる「キレのあるステップ」 

注目のプレーは後半9分。ヤマハはサニックス陣内10m付近のラックから右に展開し、 田中選手が3人の相手DFを振り切り、この日2本目のトライを決めた場面。 このプレー、CTBヴィリアミ・タヒトゥア選手(No.23)よりボールを受けた、田中選手の足と相手DFの体の向きに注目していただきたい。

田中選手の隣にもう一人味方選手がいる数的優位の状況で、相手DFとしては、大外の選手へも注意を向けなければならない。そんな意識が働いたことで相手DFの体と脚が外のDFに流れかけた、ほんのわずかな瞬間を田中選手は見逃さなかった。
相手DFの右足が横にスライドしようとクロスした瞬間に田中選手はキレのあるステップを繰り出している。まさに、相手の思考の裏をとる技ありのステップである。

田中選手のステップに翻弄された相手DF側は、下半身が逆方向へ進んでいるため、腕を出す以外に相手を止める手段が無い。腕を出したとしても、田中選手のステップ幅がその範囲を大きく超えてくるため、腕だけでストップする事が困難となるのだ。

画像提供:ヤマハ発動機㈱

4.重心を深くし、生まれる加速

さらに、田中選手のステップ後の動作にも注目していただきたい。
田中選手は、ステップを切り相手の体をずらした瞬間に、一気に頭を下げ重心を低くしていることがわかる。これによりステップ後にさらに加速することができ、相手の裏に瞬時に飛び出すことができるのだ。
重心を低くし瞬時に飛び出すこの動作は陸上のクラウチングスタートをイメージするとわかりやすい。重心を深くし、脚をバネのように使うことで加速力を生み出しているのだ。もっともこれを可能にしているのは強い脚力とブレない体幹だということも付け加えておこう。    この2つの技術を使い相手DFの裏に出た田中選手は、最後に駆け上がってきた3人目のDFに対しても前述の脚の動きを読むステップでかわし、トライラインまで一気に駆け上がった。

画像提供:ヤマハ発動機㈱

5.スピードが落ちない…一流の技術

ステップはもちろんだが、一流の田中を一流足らしめているのは、ステップの瞬間にスピードが一切落ちない点だ。

多くの選手はタイミングを計りながら、ステップを切る瞬間にスピードを落としている。 田中選手はスピードが落ちない分、DFとしても間合いを詰める時間がなくステップのタイミングを読みづらいのだ。

そしてさらに、田中選手にはステップ幅とキレという武器があるので、DFとしてはピンポイントでタックルに行くことは難しいだろう。

6.リーグも佳境 小柄選手の「大きな」技術にも注目を

170cmと小柄ながらその卓越したステップ技術を駆使し、学生時代からトライを量産してきた田中選手。今年は30歳となりベテランの域に達した彼の技術は衰えることを知らない。
いよいよトップリーグも佳境に入り、ますますトップ選手の技術から目が離せなくなってきた。
大男たちがぶつかり合うトップリーグで、小さなトライゲッターの試合を決める「大きな」ステップに是非注目していただきたい。

文:首藤甲子郎
編集:Ellis Web編集部
トップ画像提供:ヤマハ発動機㈱
撮影協力:延原ユウキ